From:黒川 純
@診察室より、、、
先日、Drop handの
患者さんが来られた。
異変に気付いて
病院にかかったところ
「時間薬だね」
そう言われたとのこと。
そんな薬が
効くわけがない。
これでは仕事も
できないということで
当院を受療された。
発症原因はよくわからない。
手関節の背屈力は低下していて、
全指の伸展ができない。
特に母指は顕著だ。
両腕を並べてみると
明らかに患側の前腕部に
atrophyがみられる。
前腕部に多少の
鈍痛はあるものの
手指に痺れはなく、
主な症状は運動障害のみ。
さらに他の様々な病態と
鑑別するために
各種検査を行った。
その結果、、、
私の判断は
後骨間神経麻痺。
初めて聞く先生も
いるかもしれない。
解剖学的な部分から
少し復習しておこう。
※以下、一部「整形・災害外科第51巻第5号」より引用
橈骨神経はまず上腕三頭筋、
肘筋に枝を出した後、
橈骨神経溝を下行して
外側筋間中隔を経て
上腕筋外側部、腕橈骨筋、
ECRLに運動枝を出す。
その後、腕橈骨筋と上腕筋とを結ぶ
結合線維組織の中をぬけ、
橈側反回動脈と交差し、
上腕骨内側上顆及び外側上を結ぶ線の
2.5~3cm遠位において
感覚枝である浅枝と
深枝(後骨間神経)に分岐する。
その後、後骨間神経は
回外筋を貫通し(Frohseのアーケード)、
ECRBと回外筋に運動枝を出した後、
さらに2本の枝
recurrent branchと
descending branchに分かれる。
ECRBへの枝は、
浅枝あるいは橈骨神経本幹から
分かれることもある。
recurrent branchは、
ECU、EDC、EDQを支配する。
descending branchは、
後骨間動脈と並走して末梢に向かい、
AbdPL、EPL、EPB、EIに分枝した後、
手根骨に達して
手関節の知覚を支配する。
ざっくりだがこれで大方後骨間神経の
解剖学的特徴は理解できたと思う。
後骨間神経麻痺の
発生機序については
外傷性と特発性、
そして占拠性病変と様々である。
詳細はエコーやMRIにて
確認することになる。
症状は手指の伸展障害
(下垂指)が生じる。
これは手指伸筋群の
麻痺のためである。
しかし、正中・尺骨神経が正常であれば
手内在筋の作用により
MP関節屈曲位でのIP関節の伸展は可能である。
また特徴的な症状として
手関節の背屈は
可能であるということ。
ECRBやECUなどの麻痺のため、
相対的な背屈力は低下するが
ECRLは本幹から分岐するために
麻痺の影響を受けていない。
そのため、
背屈は可能なわけだ。
とはいえ、橈側/尺側の
バランスで考えると、
背屈時、ECUは麻痺しているが
ECRLは麻痺していないため橈屈を伴う。
また、障害高位レベルによっても
その症状は変わる。
recurrent branchは
ECU、EDC、EDQを支配しているため、
この神経がやられると
これらの筋のみが麻痺を起こし、
Drop fingerを呈する。
descending branchがやられた場合は
AbdPL、EPL、EPB、EIが麻痺して
Drop thumbを呈する。
これらの神経が分岐する前で
やられている場合は、
これらの筋が全て麻痺するために
Drop handを呈することになる。
他にも特徴的な症状はある。
後骨間神経麻痺では
知覚障害は基本的に生じることはない。
なぜならfrohseのアーケードより
近位で知覚枝を分枝しているためだ。
そして二次的に
手指屈曲力の低下が起こる。
これは手関節の
背屈筋群の麻痺により、
手関節背屈位で
安定化させることができず、
FDSやFDPは弛緩するため、
手指を十分屈曲するための
筋の収縮幅が欠如するためである。
このように後骨間神経麻痺では
特徴的な症状を呈する。
ぜひ覚えておいていただきたい。
「いや、うちにはそんな患者さん来ないよ」
そんなことはわからない。
だって当院には
後骨間神経麻痺以外にも
過去9年間の中で…
後骨間神経麻痺:3例
Studay night injury:2例
Struthers’ arcadeでの絞扼性神経障害:2例
尺骨神経麻痺:2例
前骨間神経麻痺:1例
Wartenberg syndrome:2例
CTS:3例
Guyon 管syndrome:2例
このように上肢の絞扼性神経障害だけでも
たくさんの患者さんが来院されています。
「どうせ来ないよ」
「大丈夫だよ」
そりゃ、そんなには
来ないかもしれない。
でもそんな患者さんが来院されたときに
対応できるかどうかは
先生の信頼に大きな
影響を与えますよ。
黒川
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